「暗唱」は書き言葉で考えるトレーニング

暗唱の練習も行っています。暗唱は丸暗記なので、記憶力だけで思考力を使わないようなイメージがあります。しかし、単語の暗記ではなく文章のそれなので、実は思考力を育てる役に立つのです。「どんな意味なのだろう」と自然に疑問がわいてくるからです。 暗唱というと、詩や文学、または漢文などの芸術・古典的な文章を覚えることが一般的に行われます。しかし、私が指導しているのは、子ども向きに書かれた現代文の暗唱です。説明的な文章のお手本として、例えば「どうぶつのふしぎ」のような理科的な内容を解説したものを。物語的な文章のお手本としては「名作選」、10分間読書用の本などを覚えてもらっています。具体的にどの本にするのか。「名作選」のようなものの場合は、学年より一つ下ぐらいの難しさの文章です。読める文章よりも、使いまわせる文章の方が難度の低いものが多いからです。子どもたちに自分で選んでもらっても、私が選ぶのと同じような難度のものを選びます。 話すことは得意でも書くことは苦手なのは、書き言葉の語彙や言い回しが頭に入っていないことが原因です。本の中には、読みやすいように話し言葉で書かれた文章もありますが、書き言葉にはその特有の言葉遣いと表現方法があります。高度に抽象的な内容を説明したり、文学的な表現をしたりするために、工夫されてきたのが書き言葉の文化。説明的文章にしても物語文にしても、本に書かれている文章を自分が書く文章のお手本だと意識的に考えなければ、なかなかそのルールを自分のものにすることはできません。文法がわからないと外国語を話せないのといっしょで、書き言葉のルールをマスターしていないと文章を書く作業はできないのです。 書き言葉のルールは「大量の読書の中からそれを自然に覚える」のが方法論とも言えないこれまでの考え方でした。けれども、小学生のうちは母語として言葉を学習できる時期なので、暗唱で声に出して文章をまるごと覚えてしまうのが効率の良い学習方法なのです。その中から、言葉の使い方や文法ルールを自然に覚えることができることを知ってください。 文章の内容を十分理解せずに「棒読み」することがありますが、このトレーニングでは、いわば「棒暗唱」することが目的になってしまいます。文章の意味を理解した上で、しっかりその文章が表している内容をイメージし、疑似的に自分でその文章を再現する―――これが暗唱トレーニングで目指しているところです。そのため、子ども向けに書かれたやさしいものを選び、しっかり覚えてもらっています。このトレーニングでは、細かい言い回しや単語を間違えるのはむしろ良いことだと考えています。覚えている内容を自分の言葉で再現しようと。こういう思考回路が働いている証拠だからです。 暗唱によって声に出して書き言葉が言えるのであれば、それを文章として書きつけるのは単なる作業上の問題。そこまでやるとあまりにも負担が大きいので、そうした作業をやることはありませんが、書くことへの潜在力は飛躍的に高まっていきます。書き言葉を使って考えるという思考回路が、頭の中に出来上がるからです。 書き言葉はもともと高度に抽象的なことを考えるために作られたものなので、そうした言葉を使って考えられることは、頭がどんどん良くなるのと同じです。次に、一日五分で長文を暗唱できる方法を簡潔に説明しますので、楽しみながら取り組んでみてください。   自由が丘の塾 直井メソッド国語専門塾  ]]>

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